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佐鳴湖の底生生物と底質環境

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静岡県立浜松北高等学校

教諭     辻野兼範

要約

現在、佐鳴湖の底生生物は種類数が少なく、ユスリカが優占種であるが、個体数は少なく貧弱な底生生物相である。底泥の表層は夏でも薄い酸化層に覆われているが、その下は硫化水素臭のする灰黒色シルト質で、全硫化物(硫黄分)が多く、硫化水素臭が常にし、底生生物の生存を困難にしている。本来、底生生物の縣濁物摂食者(ヤマトシジミなど)は、水中の有機物を堆積物摂食者(ユスリカなど)の餌として底質中に排泄し、水中と底質中の物質循環にとって重要な役割を果たすが、佐鳴湖にはその担い手になる底生生物が生存しておらず、現在の佐鳴湖の生態系の課題である。

1はじめに

佐鳴湖の生物調査はプランクトン、魚類、周辺の昆虫、植物はこれまで実施されてきたが、底生生物(マクロベントス)の調査はあまり行われておらず、静岡県戦略課題研究の研究報告書にも記載はない。湖内の生態系を考える上でマクロベントスの生存状況を把握することは重要である。マクロベントスの生息状況、底質の強熱減量、硫化物量などを調査し底質環境を評価した。現在、ヤマトシジミの生存は確認できなくなく、死滅したといってよい。

ヤマトシジミが生存できない理由を明らかにすることも目的とした。

2方法

(1)マクロベントス:エグマンバージ式採泥器(15kgの重り装着)で、図1に示したように21地点で、2003年7月28日~8月1日の5日間、2004年1月31日~2月11日の5日間、2007年5月上旬から中旬にかけては、図のように14地点で採泥しマクロベントスを調査した。各地点で5回採泥し、直ちに目合い0.75mmの篩にかけ、篩に残ったものを10%ホルマリンで固定し実験室で生物を分けた。採泥面積は0.0225m2(15cm×15cm)で個体数を1.0m2に換算した。底泥はポリビンに入れ実験室に持ち帰った。表層と底層を採水し水温、塩分、溶存酸素を測定した。

(2)底泥の強熱減量と全硫化物は2004年7月に採泥し分析した。強熱減量は、105℃で乾燥した底泥を電気炉で650℃で2時間灼熱した後、炉内で自然放冷し、デシケーターに入れ秤量した。全硫化物(硫黄)は、底泥を秤量し、300mLの三角フラスコに入れ、18Nの硫酸を2.0mL入れて、硫化水素を発生させ、北川式ガス検知管で100mL吸引し、1分間待ち測定した。

S(mg/乾物g)=検知管の値×100/(S1×S2)  S1 試料量g S2 試料の乾物率

3結果

(1)底質の状態 エグマンバージ式採泥器による底泥と底泥の中にアクリルパイプを差し込み、引き抜いた底泥断面の外観を図2に示す。パイプの左2本は、表層の灰茶色泥を取り除いたものである。西川(新川)河口には砂泥質の干潟が、段子川河口には砂質の干潟が広がり、河口域以外の底質は全てシルト質で、表層は淡茶色の酸化層が0.5cm程度の厚さで、その下は硫化水素臭のする灰黒色の還元泥が堆積している。写真のパイプ中の茶色の表層泥が0.5cm以上に見えるのは、アクリルパイプを引き抜く時に表層泥が内部に引き込まれたためで、実際にはこの厚さではなく0.5cm程度である。

(2)底生生物の分布を図3に示す。2003年8月、2004年2月ともに、底生生物が確認できたのは21地点中7地点で、8月は有機汚濁の指標種であるイトミミズとユスリカのみで、2月は環形類(ゴカイ)であった。8月は最も多い所でもSt.5で35個体/m2、st7とst.9で26個体/ m2と少なかった。2004年2月も同様に少なく、環形類(ゴカイ)が北部と南部で確認でき、st.16の放水路への出口で35個体/ m2で、イトミミズとユスリカはst.2とst.8のみで確認できただけであった。2007年5月は湖央から北部の5地点でユスリカが確認でき、st.5では1199個体/m2で北部に多かった。この時水面を飛ぶツバメが多く、羽化するユスリカを餌にしているようであった。底生生物はユスリカが優占し、他はイトミミズとゴカイのみであった。種類数は少なく、個体数も少ない状態で、貝類は全く確認できず、貧弱な底生生物の生存状況である。

 

(3)底層の環境(塩分、溶存酸素と灼熱減量、全硫化物)

図4に底層水の塩分、図5に溶存酸素量と酸素飽和度、図6に底質の強熱減量と全硫化物(硫黄分)を示す。

①塩分:2003年8月底層の塩分は中央で6.3‰、他の地点はそれ以下であった。北部は3.5‰以下、南部で5.0‰以上であった。2004年2月は全ての底層で5.0‰以上、北部の方が高く5.5‰以上あり、湖南部からの流入水が北部まで流入することが確認できた。2007年5月は北部で4.0‰以下、南部で4.0‰以上であった。淡水産種と海水産種の生物種類数を比較すると、汽水産種は塩分濃度5.0psu(‰)で最も少なくなり、現在の佐鳴湖は年間平均で約5.0‰なので、底生生物にとって生息が困難な塩分と考えられる。

②溶存酸素:最小値は2003年8月中央で5.6mg/L、2004年2月9.0mg/L、2007年5月4.5mg/Lあり、マクロベントスの生存が困難になるような低酸素状態ではなかった。酸素飽和度は50%以上あり、底層水が底生生物が生存できないような貧酸素水が形成されることはない。平均水深が約2.0mと浅く、風による撹拌が考えられ、溶存酸素は底生生物の生存にとって好環境と考えられる。

③減量と全硫化物:強熱減量は最北部と最南部を除き、10~12%の範囲にあり、ほぼ同じであった。全硫化物は多くの地点で3.0mg/乾物gと高い。底質の環境基準は0.2mg/L以下、湖沼の全国平均が0.9mg/gであり、佐鳴湖の硫化物量は全国平均を大きく上回る。

4考察

佐鳴湖の底生生物は、ユスリカ、イトミミズ、ゴカイと種類数が限られ、個体数も少なく、貝類の生存は確認できない貧弱な生物相である。ヤマトシジミのような水中の縣濁物摂食者が生存していないということは、底生生物による水中の有機物の取り込みがは行われず、有機物は湖底に沈殿堆積し、底質の有機汚濁が進みやすい環境であるといえる。強熱減量は11%で特に大きな値ではないが、全硫化物(硫黄分)は約3.0mg/乾物gと高い。ヤマトシジミの漁業が盛んな宍道湖では、湖底平原部の強熱減量が13%、硫化物が1.5mg/g1)で、湖底平原部にヤマトシジミは生存していない。中村ら(1997)は全硫化物2.92mg/g以上ではヤマトシジミは生息できないと報告している。1) 佐鳴湖の全硫化物はヤマトシジミが生存できない値であるので、佐鳴湖にヤマトシジミが生存できる可能性は極めて低いことがわかる。懸濁物摂食者であるヤマトシジミは水質浄化機能が高く、昭和30年代後半までヤマトシジミが生息していた時代は、食物網による浄化作用が働いていたと推定できる。底泥の表層は夏も淡茶色の酸化層で覆われているのは、底層水の酸素飽和度が50%以上あるためであり、酸化層の下は灰黒色シルトの還元層になっており、通年硫化水素臭がする嫌気的な環境である。マクロベントスが多数生存していれば、底質を攪乱し下層まで酸素が供給されると考えられるが、現在の佐鳴湖では底生生物による攪乱作用が働かず、底質の悪化が進む悪循環になっている。ヤマトシジミの生存が可能になれば、生物による水質、底質の浄化作用が進み、自然の浄化作用が強化されることが期待出来る。

参考文献 1) 日本のシジミ漁業

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