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一潮汐による新川の水質の変化

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辻野兼範

(静岡県立浜松北高等学校 教諭)

要約

本報告は、新川下流の潮汐による影響を、上げ潮による密度成層の形成と冨栄養化物質の除去作用と負荷作用を、塩分との相関から考察したものである。新川では塩分の分布が一潮汐で大きく変動し、上げ潮時には掘留川付近まで密度成層が形成され、下げ潮では解消される。下げ潮時の塩分分布は、とびうお橋付近まで佐鳴湖からほぼ均一な塩分10‰で、クロロフィルaも同様にとびうお橋付近まで100μg/Lの大きな値で分布する。塩分とクロロフィルaの相関係数はR2=0.84と高く、潮汐によりクロロフィルaは大きく変化し、上げ潮時には希釈効果が働き保存性物質となる。一方、COD、PO4-P、無機態窒素は、塩分との相関係数がR2=0.17~0.30と小さく、新川に流入する排水路や周辺の河川からの流入物質の影響が考えられる。特に、PO4-Pの佐鳴湖への負荷が大きくなっていると考えられる。

1 はじめに

ブイの移動調査で判明したように、上げ潮と下げ潮の潮位差が同程度の時、下げ潮で佐鳴湖から流出した水は、とびうお橋付近まで達し、その後の上げ潮で再び佐鳴湖に流入していくことが分かっている1)。そのため、新川支流の河川や排水路から新川に流入する様々な富栄養化物質は、外部負荷物質として上げ潮で佐鳴湖まで運搬されることが推定できる。一潮汐の間、新川の水質は潮汐の影響を受けどのように変化するのか、佐鳴湖への負荷や浄化対策を考える上で、新川の水質を潮汐との関係で把握することは重要である。そこで、とびうお橋から放水路の臨江橋までの範囲で、一潮汐により水質がどのように変化するか調査した。

2 方法

調査地点を図1に示す。2002年8月24日にst.1志都呂橋、st.2掘留川の合流点下流、st.3町田橋(東神田川合流点下流)、st.4放水路の臨江橋の4地点を調査地点とした。st.3の町田橋、st.4の臨江橋は2000年より通水した放水路であり、旧新川よりも川幅は広い。st.1とst.2の間を新川域、st.3とst.4の間を放水路域と呼ぶことにする。各地点で午前の満潮時から下げ潮、干潮時、上げ潮、夜間の満潮時の5回、水深、流速、表層水と底層水の水温を測定し、採水後実験室で塩素量を測定し塩分に換算した。ワットマンGF/Fでろ過し、ろ過水を凍結保存した。COD(過マンガン酸カリウムアルカリ法)、クロロフィルa(アセトン抽出法)、無機態窒素(NH4-N、NO2-N、NO3-N)、PO4-Pを測定した。この日の舞阪港の潮位変化(図2)は下げ潮と上げ潮でほとんど差がなく、ブイの調査で明らかになったように佐鳴湖から流出した水は上げ潮で佐鳴湖に再び流入すると推測できる。

3 結果と考察

(1)密度成層

各調査地点の水深、水温、塩分、密度の経時変化を図3に示した。河床地形はst.2の堀留川合流点の下流付近が志都呂橋付近よりも30cm程度浅くなっており、掘留川からの運搬堆積物のためと考えられる。満潮と干潮の水深差を潮位差とすると、潮位差は下流の志都呂橋で88cm、上流の臨江橋で42cmであった。当日の舞阪港の潮位差は91cmであり、志都呂橋付近まで舞阪港と同程度の潮位差であるが、これは潮位変動に加えて、河川水の流入による水位上昇が見積もられる。

水温は午前の満潮では新川域(st.1とst.2)では表層で低く底層で高く水温差があるが、干潮では差がなくなり、夜間の満潮で再び水温成層が形成されている。これに対して、放水路域(st.3とst.4)では満潮と干潮ともに表層と底層で水温差はほとんどない。塩分は、新川域(st.1とst.2)では、午前の満潮では表層で低く、底層で高く塩分成層が形成され、干潮では差はなくなる。夜間の満潮(午後10時以降)では、放水路域(st.3、st.4)ほど底層の塩分の上昇が小さく、上げ潮が午前の満潮に比べて小さいことが示唆される。密度は水温と塩分により決まり、水温が低く塩分が高いほど密度は大きくなる。図4に示した密度と水温、塩分の相関から、満潮時の塩分と密度の相関係数はR2=0.99、水温と密度の相関係数はR2=0.80であり、塩分の方が水温よりも密度差により寄与していることがわかる。満潮時には浜名湖側から高塩分水が遡上し、表層と底層の密度差から、志都呂橋から掘留川合流点付近まで成層構造が形成され「弱混合型」、上流域ではその差がほとんどなくよく混合され「強混合型」になっていることが示唆される。密度成層の形成という観点から、掘留川合流点付近を境界にして「新川域と放水路域の二つに区分」できると考えられる。

(2)富栄養化物質

汽水域では、水中の物質の浄化や負荷を評価する方法として、塩分を横軸にとり、物質の濃度を縦軸にとり、両者の関係の現れ方で評価する方法が使われる。図5のように両者の関係がAのように直線になる場合は、分解や負荷はなく単に上げ潮により希釈混合されるだけの保存成分であり、Bのように下向きに凸になれば、吸着などにより除去され、Cのように上向きに凸になれば負荷されていると考える。

クロロフィルa、COD、PO4-Pと無機態窒素の経時変化を図6に、塩分との関係を図7に示した。全体の傾向として下げ潮時には塩分10‰以下に集中し、上げ潮時には10~25‰の範囲に低塩分から高塩分にかけて値が小さくなる傾向が読み取れる。

クロロフィルaは満潮の高塩分時に小さく、干潮の低塩分時に大きくなるのが明瞭で、その差は4倍もある。図7に示したようにクロロフィルaと塩分の相関係数がR2=0.84と高くほぼ直線状に分布することから、クロロフィルaは保存性物質で分解や負荷は働いておらず、ブイの移動調査1)で明らかになった下げ潮時のとびうお橋付近までの流下状態と、低塩分とクロロフィルaの分布が一致し、佐鳴湖水の潮汐による流動が新川のクロロフィルaの分布に大きく影響していることがわかる。

CODはクロロフィルaのような明瞭な経時変化は見られないが、塩分との相関から下げ潮の低塩分域と上げ潮の高塩分域に区分される。クロロフィルaの相関係数はR2=0.23と小さく、クロロフィルa由来以外に河川や排水路からの負荷や溶存性CODの影響があり、そのため潮汐による希釈効果はクロロフィルaほどは働いていないと考えられる。

図6-1 クロロフィルaとCODの経時変化

図 7-1 塩分とクロロフィルa、CODとの相関

PO4-P

下げ潮時に10‰以下、4.6~6.2μgat/Lの範囲に新川全域に負荷物質として分布し、上げ潮時は上凸の部分が多いことから、明らかに外部負荷が考えられる。COD同様に排水路や河川からの流入が考えられる。

無機態窒素

NO2-N、NO3-Nは上に凸の形をし、下げ潮時に流下し、上凸の上端部はst.3で、東神田川からの流入負荷のためと考えられる。上げ潮時にはNO3-Nは直線状に分布していることから保存性物質になっており、上げ潮による希釈効果が働き除去作用はないと考えられる。NO2-N は上凸の部分が多く、これはNH4-Nが酸化されて形態変化したためと考えられる。NH4-Nは下げ潮で高濃度で新川全体に分布し、それが上げ潮で希釈され保存物質となり、一部はNO2-Nに酸化されていると推測できる。NO3-Nと比較すると上凸の部分もあり、排水路や河川からの流入、底質からの溶出などの負荷も考えられる。

新川下流域に流入する負荷源は排水路と河川があり、東神田川からはPO4-PとCODが、掘留川からは無機態窒素(DIN)の流入負荷が大きい2)ことが分かっている。また、下げ潮時の水質調査から新川下流域は、PO4-Pや無機態窒素(DIN)の値が大きくなる傾向があることも調査から分かっており3)、また、夏には河床からのPO4-PやNH4-Nの溶出も考えられ、上凸の分布がCOD、NO2-N、NH4-Nに見られると考えられる。

下げ潮時には新川の水位が低下し、周囲の排水路や河川から新川に有機物質やリン、窒素などの溶存性物質が流入し濃度が大きくなり、上げ潮時には保存性物質として佐鳴湖に運搬されると考えられる。新川は、佐鳴湖から流出した物質の除去作用をしておらず、上凸の傾向がみられることから、佐鳴湖から流出する成分に加えて、排水路や河川から流入して来る各種成分が負荷物質となり、上げ潮で佐鳴湖に流入していくと考えられる。中でもPO4-Pは、塩分濃度に関わらず大きな値で、植物性プランクトン増殖の制限因子でもあり、外部負荷の影響が最も大きく、佐鳴湖で植物性プランクトンなどの光合成微生物の増殖を支えていると考えられる。

図7-2 塩分とPO4-P、無機態窒素との相関

今後の課題

富栄養化物質の佐鳴湖からの流出と上げ潮による流入の収支を調査し、潮汐による佐鳴湖への負荷の影響を考察する。

参考文献

1) 新川の潮汐による水の移動(辻野HP)

2) 新川下流域に流入する排水路と流入河川からの負荷量(辻野HP)

3) 新川下流域の干潮時の水質(辻野HP)

その他)

静岡県戦略課題研究 「快適空間 佐鳴湖 の創造」第2章5項流入・流出河川の佐鳴湖の水質に及ぼす影響 (平成20年静岡県産業部)

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